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19話 ユウヤの放つ本気の殺意への対峙

Auteur: みみっく
last update Date de publication: 2026-01-04 06:00:27

 ミリアのナイフのサイズに合わせ、魔石の形と大きさを精密に調整していく。指先で魔力を整えながらナイフの柄へと嵌め込むと、それはまるで最初からそこにあったかのように完璧に馴染んだ。

(うん……なかなか格好良いじゃない?)

 完成したナイフは、ただの宝石とは一線を画す、深く幻想的な輝きを放っている。見つめていると吸い込まれそうなほど純粋な蒼。それがミリアの柔らかな金髪と対比され、凛とした美しさを引き立てていた。

「はい。これだけど……どうかな?」

 差し出されたナイフを手に取り、ミリアは息を呑んだ。

「わぁ……キレイです……スゴイですっ! こんなに澄んだ青色は見たことがありませんわ……」

 彼女は宝石の輝きを瞳に映しながら、うっとりとナイフを見つめている。だが、ユウヤはそこで終わらせるつもりはなかった。

「ちょっと待ってて……試したい事があるんだ~」

「はい♪」

 ミリアはユウヤへの全幅の信頼を込めて、花が綻ぶような笑顔で頷いた。

 魔石を指先でなぞりながら、対象者に害意や殺意が向けられた瞬間に強力なバリアが発動するよう、緻密なイメージと共に魔力を流し込んだ。

 よし……成功したかな。すぐにでも性能を試したいけれど、当然ながら俺がミリアに殺意を向けるなんて真似は逆立ちしたってできそうにない。そこで、気配を感じる天井付近へと視線を向けた。

「あ、護衛の人……ちょっと良いかな? これを持っててくれる?」

 そこにいる精鋭なら実験台には丁度いいと思ったのだが、言葉を遮るようにミリアが声を荒らげた。

「ダメですっ! そのナイフは、男性の方で持って良いのはユウヤ様だけですわっ」

「えぇ……実験なのに……ダメ? 試したいんだけどなぁ」

「ダメですっ!」

 ミリアは両手でナイフを胸元に抱え込み、今まで見たことがないほど必死な形相で俺を拒絶した。その必死すぎる剣幕に、俺は思わず圧倒されてしまう。

「何でそんなに嫌がってるの?」

「……ちゃんと先程、自害用と説明しましたわ」

「ん? あ……うん?」

 ユウヤが首を傾げると、ミリアは潤んだ瞳を揺らしながら、震える声でその理由を口にした。

「ですから……このナイフを男性に渡したら、わたしが自害を出来なくなり辱めを受けてしまいますわ……。ですのでユウヤ様は良いですが、他の男性に渡すのは嫌なのです……」

 ミリアの頬は屈辱と羞恥で朱に染まり、ナイフを握る指先には白くなるほど力がこもっていた。

 そっか……ナイフを渡すって、単なる信用問題だけじゃないんだな。たとえ目の前に助けられる俺がいたとしても、自害用の得物を他所の男に預けるというのは、彼女にとって魂の尊厳を投げ出すような心理的抵抗があるんだろう。

「……ごめん。配慮が足りなかったよ」

 俺は申し訳ない気持ちで彼女の肩にそっと手を置いた。

 このナイフは、彼女が自分自身の誇りを守るための最後の砦。それを守るために、俺は最高級の守護を込めたんだ。実験は別の方法を考えることにしよう。

「そっか……理解できたよ。う~ん……どうしよ……?」

 実験の手詰まりに俺が腕を組んで唸っていると、ミリアは納得したように頷き、凛とした声で部屋の隅へと呼びかけた。

「それでしたら、女性の護衛の方、こちらへ」

 ミリアが呼んだのは、男性の隠密ではなく、影のように控えていた女性の護衛だった。

「はいっ!」

 音もなく目の前に跪いた彼女に、俺は少し慌てて確認する。

「いやいや……これから殺意を向けるんだけど? 大丈夫?」

「はい? あ、はい……殺意だけ、ですよね? 殺されませんよね?」

 女性の護衛は、少しだけ不安げに眉を下げて聞いてきた。いくら精鋭とはいえ、俺が本気で殺しにくると思えば、それは恐怖以外の何物でもないだろう。

「ミリアの大切な護衛を殺すわけ無いじゃん……。でも、本気の殺意を向けるから、精神的にきついんじゃないかと思ってさ」

「大丈夫です。実戦訓練やモンスターの討伐を経験しておりますので、殺気や殺意なら問題ありません! 何度も受けております」

 彼女はキリリと表情を引き締め、堂々と胸を張った。その真っ直ぐな瞳は格好良く、これなら任せても良さそうだ。

「どんな実験なんですの? 魔石の実験ですか……?」

 ミリアが不思議そうに首を傾げて聞いてくる。

 無理もない。この世界での魔石の使い道といえば、生活魔法の触媒としてお湯を沸かしたり、明かりを灯したり、あるいは砕いて特殊なインクにし、ギルドカードのような魔道具の素材にするくらいだ。

 俺がやろうとしている「魔石そのものに特定の条件で魔法を発動させる」という概念は、おそらくこの世界の常識にはない。俺だって、前世のゲームやアニメの知識を元に「もしかしたら」と思って試しているだけだ。

 もし成功すれば、ミリアを守る最強の盾になる。だが、バリアの仕組みを詳しく説明するのも、それはそれで手の内を明かしすぎる気がして難しい。

「……うん、ちょっとした『お守り』の効果を確かめたくてね」

 俺は曖昧に微笑み、ナイフを持つ女性の護衛に向き直った。

「じゃあ、いくよ。少しの間、怖い思いをさせるけど我慢してね」

 俺は深呼吸をし、意識の底から「標的を排除する」という鋭利な殺意を練り上げた。

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